他界 他界
他界した祖母とは一度も会ったことがない
なにせ私が生まれる前に亡くなったからだ
だから人生でよく思ったことがあるのは
亡くなった祖母が生まれ変わって別の人生を歩んでいるのではないかと
私の祖母という役割を終えて
自由に人生を送っているんじゃないかと
聞いた話だと私の祖母は相当苦労をしたらしいので
生まれ変わってくれていたならそうあって欲しいと願うばかりだ
寒空の季節 葉っぱが落ち始めた頃
私はただ憂うばかりの娘の姿を見て
いたたまれない気持ちになるばかりだった
まるでかつての母を見るようだったから
「幸子、欲しいものは何だい?」
「そうね…。特にないわ。あなたさえいてくれたらそれでいい」
僕は何も答えられなかった。代わりに質問を変えてみた。
「じゃあ、仮に僕がいなかったとして、欲しいものは何だい?」
酷な質問だと思った。だが、幸子は少し考えた後、首を少し傾けながら答えた。
「そうね…。空を飛ぶことかしら。ここでもない、どこかへ飛び去ること。それが望みかな。」
なるほど、素直な答えだと思った。もはやそれは願望ではないな、とも思った。
僕がいないなんて、まるでここでもないどこかへ飛び去っているのと同じじゃないか、と。
幸子にとって、僕という存在そのものが「今ここ」なのだ
一瞬一瞬の時間を、なにかに包まれた場所を作り出しているのが、僕という存在なのだと。
僕がいなければ、今もここもない、無限の止め処ないところへと放り出されてしまうのだ、と。そんな感じがしたのだ。
幸子はふと口を開いた。
「ねえ、ステーキが食べたいわ」
一連の考えが浮かんでからというもの、僕は奮発せざるをえないなと思った。
なので、すぐにいきなりステーキに連れて行き、さほどいきなりでもないタイミングでステーキを食べた
藪から棒というのでもなかった。肉が食べたかったのだ。
ヴィーガンになるのは難しい。難しいも何も、僕が食べないようにしていたのは牛肉と豚肉だけで、鶏肉は普通に食べていたのだ。
鶏肉は食うなんて、まるでチキンだ。チキンの共食い、そんな気分でもしたかしら。
目の前に白い光景が目に浮かんだ。
粒のような光が無数に……
視力を失ったかと思った
気が付けば君は光の中に導かれて行ったね
僕はまだそちらには行けないよ
君も来て欲しくはないだろう
まだ早い 早すぎる
時間は十分にある
近道はせずに ゆっくりとそっちにいくよ
せめてこの時間は ぶらぶらさせてくれ
周り道も悪くない
光はずっと見据えているから
いつかそっちへ 行ってあげるから